仮想通貨な世界 第一話 

1.目覚めの朝

2040年、ハイテク化が進みに進んだ日本。

20年前には懐疑の眼を向けられていた仮想通貨も
いまや日常には欠かせないモノになった。

車は等間隔で走る無人の箱となり、
電車を乗るにも切符などという紙切れは
もはや存在しない。

何もせずにカード一枚を持ち、そのまま乗車すれば、
目的地で降りることが可能だ。

その一枚に使用されているのが
「マイナンバーカード」である。

ちなみに、日本円もまだあるにはあるが
もはやコレクターが集めるためのモノになっている。

そういう意味では、価値は以前より高騰しているのかもしれない。

「涼太…起きなさい!!今日は入学式でしょ!」
俺は、母親の口やかましい騒音で最悪の眼覚めを迎えた。

「まだ、朝6時じゃねーか」
カーテンをめくりながら、思わず本音がこぼれる。

「口答えしない、早くスーツに着替えなさい!!」
なんで、こうどこの母も地獄耳なんだろうか。
俺は重たい身体をむくりと起こした。

衣装タンスの中にかけてあったスーツ一式と対面する。
ふーっ、なれない手つきで、ネクタイを結び始める。

ネクタイが明らかに歪んている。
難しいな…、
初めてしっかりとスーツを着るのに思ったより
時間が掛かってしまった。
主にネクタイのせいだが。

暗かった街並みは、徐々に明るみを放っていく。
時計の針はチクタクと時を刻む。

ようやくスーツの着こなしに納得いったので、
ゆっくりと顔を上げた。

もうこんな時間か!

集合時間ぎりぎりまで時は滑らかに進んでいた。

「行ってくる!」
大慌てで走りながら、大声で母に声をかける。

「ちょっと忘れ物!!」
カードを母に後ろから、猛烈な勢いで押し付けられる。
おお、まずかった。
いつもは鬱陶しいだけの母だが、この時はさすがに感謝を意を示した。

「ありがと!」
必死に玄関に向かっての走りを再開した。

母は、本当にあきれた表情をしながら
「落ち着いて、行きなさい」
そうなだめるような口調を背中に向けてかけてくれた。

たかが、一枚のカード。
されど、一枚のカード。

マイナンバーカードは、進化に進化を遂げた。
身体情報や住所はもちろんの事、
電車に乗る時や
モノを買う時、サービスを受ける時…
何から何までこの一枚をかざすだけでことが済む。

一度、病院に持っていくことを忘れて大変な目に遭った。

それ以来、母にはこぴっどく
「マイナンバーカードは持ってるの?」
毎回のようにきつい口調で聞かれる。

分かってるっつーの。
このカードがなきゃ、何もできないことくらい。

そーいや、高校の担任も物凄い説教してきたな。

正直、うざかった。
「お前たちいいか、これは本当に大事なカードだからな。
絶対に貰ったことを親に言うように!!」
高3の春だったっけか。

教室には春の温もりが窓から
これでもかというくらい送り込まれていた。

「おーい涼太、聞いてるのか?」
制服が煩わしいので、俺はボタンを一つ開けたところだった。

「いや、桜がきれいだなーって」
「お前の頭がお花畑なんだよ」
担任の一言に教室中がドッと爆笑の渦に巻き込まれる。

いらつく担任だな…
「それより今日は何の授業なんだよ?」

この質問に、
担任はおとぼけ顔から一転、急に真面目な顔になる。

その変わりように、爆笑の最中だった教室が一気に静まり返る。

「いいか、お前たち今日は、マイナンバーと各自のトークン付与に
ついての話をする。
これは、大人になっても絶対に知っとかないといけないことだ。
この選択次第で、お前たちの未来は大きく変わるからな」

…どうせ、担任が話を大きく盛っているだけだろ。

身に染みて、この話の重要性に気づいたのは、大学に入ってからの事だった。

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